大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所大法廷 昭和22年(れ)43号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人吉田吉四郎上告趣意は「(一)上告ニ關スル制限ノ適否。刑事訴訟ニ關スル應急措置法第十三條ニヨレハ刑事訴訟法第四百十二條乃至第四百十四條ノ規定ハ上告ニ付適用シナイ旨規定シテアルカ人間ノナス裁判ニハ感情ノ動キ又事物ニ對スル認識ノ具合等ニヨリ量刑不當ノ場合アルコトハ當然又再審ノ事由ノ存在スルコト重大ナル事実ノ誤認ノ生スルコト亦當然ノ事理ニ屬ス然ルニ措置法ハ本年十二月末日マテ之等ノ事由ニヨル上告ノ封殺ハ果シテ憲法ニ適スルカ大イニ疑問トスル處ニシテ憲法第八十一條ニ則リテ先ツ此ノ事実審査スヘキモノト信ス、(二)被告ノ犯行ノ内容ハ現状ニ於テ他ノ共犯者ノ指示ニヨリ電球凾ヲ運搬シタルニスキサル本件ニ對シ懲役四年、之ニ對スル未決勾留通算ノ判決ハ決シテ適正妥當ノモノニアラス、要スルニ刑ノ量定重キニスクルモノナルコト明ナルモ措置法ニ之ヲ理由トスル上告ノ制限規定存在スル以上詳細ノ説明省略シ追而此ノ理由カ上告趣旨該當セラルル旨御裁判アリ次第追完スルモノナリ」と云うにある。

しかし上告審において原審の事実認定の可否を判斷するには自ら事実審査をしなければならない。これはいう迄もないことだが刑の量定の當否を判斷するにもやはり事実審査をしなければならない。蓋刑の輕重は犯況、情状等に付き詳細の審査をしなければ之れを定めることが出來ないものだからである。故に原審の事実認定乃至刑の量定に對する批難を上告の理由として認めるか否かは上告審においても事実審査をすることにするかどうかの問題となり結局審級制度の問題に歸着する。日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に関する法律第十三條第二項が刑事訴訟法第四百十二條乃至第四百十四條の規定を適用しない旨を定めたのは畢竟審級制度の問題として実體上の事実審査は第二審を以て打切り上告審においてはこれをしないことにする趣旨に出たものである。而して憲法は審級制度を如何にすべきかに付ては第八十一條において「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は處分が憲法に適合するかしないかを決定する權限を有する終審裁判所である」旨を定めて居る以外何等規定する處がないから此の點以外の審級制度は立法を以て適宜に之れを定むべきものである。從って日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に関する法律第十三條第二項が前記の如く事実審査を第二審限りとし刑事訴訟法第四百十二條乃至第四百十四條の規定を適用しないことにしたからと云ってこれを憲法違反なりとすることは出來ない。故に右規定が違憲であることを主張しこれを前提として原審の刑の量定を攻撃せんとする論旨は上告の理由とならない。

よって裁判所法第十條但書第一號、刑事訴訟法第四百四十六條に從い主文の如く判決する。

以上は、裁判官全員異論の無い處である。

(裁判長裁判官 三淵忠彦 裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 庄野理一 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例